「ごまをする(胡麻を擂る)」とは、他人にへつらい、機嫌をとって自分に有利になるように立ち回ることを意味する慣用句です。
この言葉の由来は、すり鉢を使って胡麻をすり潰す際、砕けた胡麻があちこちに飛び散り、すり鉢のあちこちにくっつく様子から来ています。
あちこちにへばりつく胡麻の様子が、人にすり寄って媚びへつらう人間の姿にそっくりだったため、このような表現が生まれたとされています。
本記事では、この有名な語源の詳しい背景や、もう一つの別説、似た意味を持つ言葉、そして英語圏での面白い表現など、ごまをするにまつわる知識を詳しく紐解いていきます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 由来の核心 | すり鉢で胡麻をすった際、胡麻がすり鉢のあちこちにくっつく様子から。 |
| 言葉の意味 | 人にへつらい、機嫌をとること。 |
| 別説の存在 | 胡麻をすると油が出て滑らかになることから、人間関係を円滑にする様子に例えたという説。 |
ごまをするの由来を先に結論から解説
まずは、ごまをするという言葉がどこから来たのか、由来の核心部分から解説します。
すり鉢に胡麻があちこちくっつく様子が語源
「ごまをする」の最も有力な語源は、調理器具である「すり鉢」と「すりこぎ」を使って胡麻をすり潰すときの様子に由来します。
炒り胡麻をすり鉢に入れてすりこぎで回していくと、砕けた胡麻の粒は下にとどまらず、すり鉢の内側の溝(すり目)に沿ってあちこちに飛び散り、へばりつきます。
この「あちこちにくっついて回る様子」が、権力者や目上の人に対してすり寄り、あちこちで機嫌をとって媚びへつらう人間の卑屈な態度に似ていると見立てられました。
古くから日本の台所でおなじみだった光景が、人間の行動の皮肉な例えとして定着したものです。
ごまをするの由来早見表
言葉の成り立ちをわかりやすく整理しておきます。
| 要素 | 解説 |
|---|---|
| 胡麻の動き | すり鉢の内側であちこちに飛び散り、くっつく。 |
| 人間の行動 | 有力者や目上の人にすり寄り、機嫌をとる。 |
| 見立ての面白さ | 胡麻がへばりつく様を、媚びる人の卑屈な姿に重ね合わせたユーモア。 |
ごまをするの語源と成り立ち
慣用句を構成する「ごま」と「する」という言葉の成り立ちや、歴史的な背景を詳しく見ていきます。
「ごま」と「する」が意味するもの
漢字では「胡麻を擂る」と書きます。
「擂る(する)」とは、すり鉢の中で物を細かく砕きながらこすりつける動作を指します。大豆などをすることもありますが、特に胡麻は日本の食卓において非常に身近な食材であり、ごま和えなどで頻繁にすり潰されてきました。
すり鉢の細かい溝に油分を含んだ胡麻が入り込んでくっつく様子は、洗い落とすのが厄介なほどしっかりと密着します。この「べったりとくっつく」という物理的な現象が、「相手に取り入る」という心理的な動作の完璧なメタファー(隠喩)として機能したのです。
言葉が定着するまでの変化の流れ
この言葉がどのようにして現代の意味として定着したのか、その変化の流れを推測すると以下のようになります。
- すり鉢で胡麻をする日常的な家事の中で、胡麻があちこちにへばりつく様子が観察される。
- その様子が、目上の人にあちこちですり寄り、媚びへつらう人間の姿にそっくりだと気づいた人々が例えとして使い始める。
- 江戸時代後期から明治時代にかけて、庶民の間でユーモアや皮肉を込めた言葉として広く使われるようになる。
- 現代に至るまで、「他人に媚びを売って機嫌をとること」の代表的な慣用句として定着する。
明確に「この文学作品が初出である」と特定するのは難しいですが、庶民の生活の中から自然発生的に生まれ、口伝えで広まっていった言葉と考えられています。
ごまをするの由来に関する別の説
ごまをするの由来には、あちこちにくっつく様子からという有力説のほかに、もう一つよく知られた別説が存在します。
油が出て滑らかになるからとする説
もう一つの説は、胡麻の成分に着目したものです。
胡麻には豊かな油分が含まれており、すりこぎで丁寧にすり潰していくと、だんだんと油が滲み出てきて全体がしっとりと滑らかなペースト状になっていきます。
この「すり潰すことで油が出て、物事が滑らかに動くようになる」という物理的な変化を、人間関係に当てはめたという説です。
つまり、相手の機嫌をとる(ごまをする)ことで、ギスギスしていた関係から油が出て、人間関係が円滑(滑らか)に進むようになる、という解釈です。
有力説と別説の比較
二つの説のニュアンスの違いを比較してみましょう。
| 説の種類 | 語源の解釈 | 込められたニュアンス |
|---|---|---|
| 有力説(くっつく説) | 胡麻がすり鉢のあちこちにへばりつく様子 | 媚びへつらう、すり寄るという卑屈さ・見苦しさ(皮肉) |
| 別説(油が出る説) | 胡麻の油で全体が滑らかになる様子 | 人間関係を円滑に進めるための処世術・潤滑油 |
国語辞典や語源辞典では、前者の「あちこちにくっつく様子」を有力な語源として紹介していることが大半です。「ごまをする」という言葉自体にネガティブで卑屈なニュアンスが含まれているため、皮肉の効いた有力説の方が言葉の持つ雰囲気に適していると評価されています。
ごまをするの意味や使い方
由来を押さえたうえで、言葉の正しい意味と現代でのリアルな使われ方を確認します。
本来の意味と正しい読み方
読み方は「ごまをする」です。名詞形として「ごますり」という言葉も日常的に使われます。
意味は、自分の利益になるように、他人にへつらって機嫌をとることです。
単に相手を褒めるのではなく、そこに「自分の評価を上げたい」「便宜を図ってほしい」という下心が含まれている点が大きな特徴です。
現代のビジネスシーンや日常での使われ方
ビジネスシーンや日常会話において、この言葉はネガティブな文脈や、少し自嘲的な場面で使われます。
- 「彼は上司にごまをするのだけは誰よりも上手い」
- 「出世のためにごまをするような生き方はしたくない」
- 「ここは一つ、取引先の社長にごまをすっておこう」
このように、他人の行動を批判・軽蔑する際に使われることが多いですが、時には自分自身の行動を「仕方なく機嫌をとる」と割り切って自虐的に表現する際にも使われます。
目上の人に直接「ごまをすらせていただきます」と言うのは大変失礼にあたるため、あくまで第三者を評する際や内輪の会話に留めるのが基本です。
ごまをするにまつわる雑学
言葉の背景を知ると、似た言葉や他言語での表現との比較がもっと面白くなります。人に話したくなる雑学を整理しました。
ごますりの類義語や言い換え表現
ごまをする、あるいは「ごますり」と似た意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- おべっかを使う:相手の機嫌をとるために、心에도ないお世辞を言うこと。「おべっか」の語源は諸説ありますが、口先だけで調子を合わせることを指します。
- 媚びを売る(こびをうる):相手に気に入られるように、機嫌をとる態度を示すこと。
- 阿る(おもねる):相手の機嫌をとり、気に入られようとすること。少し硬い文章表現です。
- 太鼓持ち(たいこもち):人にへつらって機嫌をとる人のこと。元々は宴会で客の機嫌をとって場を盛り上げる職業(幇間・ほうかん)を指す言葉です。
- 忖度(そんたく)する:相手の心中を推し量って配慮すること。近年は「権力者にへつらう」というネガティブな意味合いで使われることが増えました。
ごますりの対義語
反対に、「相手にへつらわない」「自分の意見をはっきり言う」ことを意味する言葉も確認しておきましょう。
- 歯に衣着せぬ(はにきぬきせぬ):相手に遠慮することなく、思った通りにずけずけと言うこと。
- 直言(ちょくげん)する:自分の信じるところを、遠慮せずにありのままに言うこと。
- 媚びない(こびない):他人の機嫌をとったり、すり寄ったりしない態度。
英語では「リンゴを磨く」?他言語での表現
「ごまをする」という表現は日本独特のものですが、海外にも「相手の機嫌をとる」ことを食べ物や動作で例える面白い表現があります。
- Apple-polish(リンゴを磨く):英語圏の表現。昔の生徒が、先生に気に入られるためにピカピカに磨いたリンゴをプレゼントした風習に由来し、「ごまをする」「おべっかを使う」という意味になります。ごますりをする人を「Apple-polisher」と呼びます。
- Butter up(バターを塗る):これも英語圏の表現。相手にバターを塗るように、滑らかな言葉でおだてて機嫌をとることを意味します。
日本は「すり鉢の胡麻」、英語圏は「磨いたリンゴ」や「バター」と、それぞれの文化に根ざした身近な食べ物が例えに使われているのは非常に興味深い共通点です。
ごまをするの由来でよくある誤解
言葉の由来や意味において、陥りやすい誤解のポイントを整理しておきます。
胡麻の風味の良さが由来ではない
胡麻をすると非常に良い香りが立つため、「相手を良い気分にさせること」が語源だと勘違いされることがありますが、これは誤りです。
前述の通り、この言葉の根底には「あちこちにへばりつく見苦しさ」や「油を出して滑らかにする処世術」という見立てがあります。胡麻の「香り」や「味」の良さが由来になっているわけではありません。
ただ褒めることとはニュアンスが違う
相手の良いところを見つけて純粋に称賛することを、「ごまをする」と表現するのは誤用です。
「ごまをする」には、心にもないお世辞を言って、自分に有利になるように取り入る下心が含まれています。純粋な称賛や尊敬の念を表す場合には、「感銘を受ける」「敬意を払う」「褒め称える」といった適切な言葉を選びましょう。
ごまをするの由来に関するよくある質問
ごまをするの由来や使い方について、よく検索される疑問を一問一答形式でまとめました。
「ごまをする」の語源は何ですか?
すり鉢で胡麻をすり潰す際、砕けた胡麻がすり鉢のあちこちにへばりつく様子が語源です。それが、権力者などにあちこちですり寄り、機嫌をとる人間の姿に似ていることから生まれました。
胡麻から油が出るからという説は本当ですか?
胡麻をすると油が滲み出て滑らかになることから、人間関係を円滑にする様子に例えたという別説もあります。ただし、一般的には「すり鉢にくっつく様子」を有力な語源とする辞書が多いです。
「ごまをする」と「おべっかを使う」の違いは何ですか?
意味はほぼ同じで、どちらも他人の機嫌をとることを指します。「ごまをする」は行動や態度全般ですり寄るニュアンスがあり、「おべっかを使う」は主に口先(言葉)で心にもないお世辞を言うニュアンスが強い傾向があります。
「ごますり」を英語で何と言いますか?
英語では「Apple-polish(リンゴを磨く)」や「Butter up(バターを塗る)」という表現がよく使われます。生徒が先生に磨いたリンゴを渡して機嫌をとった風習などが由来です。
「ごまをする」は目上の人に使っても良い言葉ですか?
下心を持ってへつらうというネガティブな意味を持つため、目上の人に対して直接使うのは大変失礼です。「私がごまをすります」と自分の行動を卑下して言う場合や、第三者の行動を批判する際に使われます。
ごまをするの由来まとめ
最後に、ごまをするの由来について要点を振り返ります。
ごまをするとは、他人にへつらって機嫌をとり、自分に有利に立ち回ることを意味する慣用句です。
その由来は、すり鉢で胡麻をすった際、あちこちにへばりつく胡麻の様子を、有力者にすり寄る卑屈な人間の姿に重ね合わせたことにありました。また、すり潰すことで油が出て滑らかになることから、人間関係の潤滑油に例えられたという別説も存在します。
日本人が古くから親しんできた台所の風景が、人間の処世術を見事に表す言葉として現代まで生き続けているのは、言葉の成り立ちの面白さを感じさせます。
英語圏にも「リンゴを磨く」「バターを塗る」といった似たような表現があり、どこの世界でも「相手の機嫌をとる」という行動は、身近な食べ物に例えられやすいのかもしれません。