「一富士二鷹三茄子(いちふじにたかさんなすび)」の由来は、徳川家康ゆかりの地である駿河国(現在の静岡県)の名物や、高いものを順番に並べたという説が最も有力とされています。
お正月の初夢に見ると縁起が良いものの順番として広く知られていますが、「なぜ茄子(なす)が入っているの?」と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。
この記事では、一富士二鷹三茄子の語源や徳川家康にまつわる諸説、それぞれのアイテムが持つ縁起の意味から、あまり知られていない「四・五・六の続き」などの関連雑学まで詳しく解説します。
まずは、この記事で解説するポイントを以下の表に整理しました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 由来の結論 | 駿河国(静岡県)の名物や高いものを並べたという説が有力 |
| 本来の意味 | 正月の初夢に見ると縁起が良いとされるものの順番 |
| よくある誤解 | 野菜の「茄子」が唐突に入っているわけではなく、明確な語呂合わせや理由がある |
| 記事で分かること | 語源、家康との関係、各言葉の意味、四以降の続き(四扇、五煙草、六座頭)など |
一富士二鷹三茄子の由来を先に結論から解説
日本のお正月における代表的なことわざですが、この三つの組み合わせがどのようにして生まれたのか、まずはその核心となる結論から解説します。
最も有力とされるのは「駿河国の名物・高いもの」説
最も有力な説は、徳川家康が隠居生活を送った駿河国(現在の静岡県)の名物、あるいは「駿河国で高い(優れている、または値段が高い)もの」を順番に並べたというものです。
- 一富士:日本一高い山である「富士山」
- 二鷹:富士山の生息し、富士山に次いで高い(あるいは駿河にある高い山「愛鷹山(あしたかやま)」を指す)とされる「鷹」
- 三茄子:他国よりも早く収穫され、初物として非常に値段が高かった駿河の「茄子」
江戸幕府を開いた徳川家康のお膝元である駿河国の名物を夢に見ることは、立身出世や幸運の象徴とされました。
当時の江戸の人々にとって、家康ゆかりの地の名物は、まさに縁起の良さの極みだったのです。
由来と意味の早見表
一富士二鷹三茄子の成り立ちと諸説の要点を、以下の表に分かりやすくまとめました。
| 観点 | 詳細と確からしさ |
|---|---|
| 駿河名物説(有力) | 駿河国(静岡県)の高いもの、または名物を順に挙げた説。家康のお膝元であるため縁起物として江戸に広まった。 |
| 家康の好物説(一説) | 徳川家康自身が好んだものを順番に並べたとする説。 |
| 語呂合わせ説(一説) | 富士=無事、鷹=高い、茄子=成す、と縁起の良い言葉を掛け合わせた説。 |
一富士二鷹三茄子の語源とそれぞれの縁起の意味
この三つの言葉は、単に名物を並べただけではなく、それぞれに深い縁起の良さと語呂合わせ(言葉遊び)が隠されています。
一つひとつのアイテムがなぜ選ばれたのかを詳しく見ていきましょう。
一富士(いちふじ):日本一の山と「無事」の語呂合わせ
富士山は言わずと知れた日本一の山であり、その雄大で末広がりの美しい姿から、古くから神聖な山として信仰されてきました。
夢に富士山が出てくることは、それだけで「日本一」や「高い目標」の象徴となります。
さらに、語呂合わせの意味も含まれています。
「富士(ふじ)」は「無事(ぶじ)」や「不死(ふし)」に通じるため、無病息災や長寿、一年を無事に過ごせるという強い願いが込められています。
二鷹(にたか):高く舞い上がる鳥と「貴い」の語呂合わせ
鷹は、鋭い爪と嘴(くちばし)を持ち、大空を高く舞い上がる力強い鳥です。
大空を舞う姿は「運気が高く上昇する」ことを意味し、獲物を確実に捕らえる姿から「チャンスや運を掴み取る」という縁起の良さを持っています。
当時の武士にとって鷹狩りは権威の象徴でもありました。
語呂合わせとしては、「鷹(たか)」はそのまま「高い」や「貴い(とうとい)」に通じ、身分が高くなることや願いが叶うことを意味しています。
三茄子(さんなすび):事を「成す」と「毛がない(怪我ない)」
一見すると、壮大な山や猛禽類の後に「野菜」が続くのは少し不自然に感じるかもしれません。
しかし、茄子は「事を成す(達成する、成功する)」という非常に縁起の良い語呂合わせを持っています。
子孫繁栄の象徴でもあり、茄子は花が咲くと無駄なく実をつけることから、「努力が必ず実を結ぶ」という意味も込められています。
さらに面白い語呂合わせとして、「茄子には毛がない」ことから、「毛がない=怪我(けが)ない」という無病息災の願いが込められているという解釈も広く知られています。
一富士二鷹三茄子の由来をめぐる諸説
駿河名物説のほかにも、一富士二鷹三茄子にはいくつかの興味深い由来の説が存在します。
時代背景や歴史的エピソードと結びついた諸説を紹介します。
有力な一説としての「徳川家康の好物」説
駿河名物説と並んで有名なのが、徳川家康自身が好んだものを順番に並べたとする説です。
家康は富士山を借景とする風景を愛し、鷹狩りを非常に好んだことで知られています。
そして、初物の茄子を好んで食べていたという記録も残っています。
天下人である家康の好物にあやかることで、その強運や長寿、出世運にあやかろうとした江戸の庶民たちの間で広まったという見方は非常に自然です。
古典や歴史に由来する「曽我兄弟の仇討ち」説
少し異なる角度の説として、鎌倉時代に起きた有名な事件「曽我兄弟(そがきょうだい)の仇討ち」に由来するという俗説もあります。
曽我兄弟が父親の仇である工藤祐経(くどうすけつね)を討ち取った場所が「富士の裾野」でした。
その際、仇討ちを決行したのが「鷹の羽」の紋所を持つ日であり、兄弟が討ち入り前に「茄子」を食べたとされる言い伝え(あるいは茄子畑に隠れていた等)から来ているというものです。
しかし、この説は語呂合わせやこじつけの要素が強く、ことわざの起源としての確からしさは低いとされています。
いつごろから初夢の縁起物として定着したか
「一富士二鷹三茄子」という言葉が文献に登場し始めたのは、江戸時代初期のことです。
江戸幕府が開かれ、世の中が平和になると、庶民の間で初夢で一年の吉凶を占う風習が盛んになりました。
宝船の絵を枕の下に敷いて寝ると良い夢が見られるといった風習とともに、縁起の良い夢のランキングとして定着していったのです。
江戸時代中期の辞書や随筆には、すでに現在の形でおめでたい言葉として記録されています。
一富士二鷹三茄子の意味や現代での使われ方
ここからは、言葉の本来の意味と、現代社会での使い方について整理していきます。
お正月以外にも、比喩表現として使われることがあります。
本来の意味は「初夢に見ると縁起が良い順番」
本来の意味はご存知の通り、「お正月の初夢に見ると縁起が良いとされるものの順番」です。
第一位が富士山、第二位が鷹、第三位が茄子であり、これらを夢に見ることができれば、その一年は素晴らしい年になるとされました。
もちろん、三つすべてを一度に見る必要はなく、どれか一つでも夢に出れば大吉とされます。
現代でのビジネスや日常会話における比喩表現
現代では、初夢の話以外でも、おめでたいことや縁起の良いものを並べ立てる際の比喩表現として使われることがあります。
- 縁起物の象徴として:「お店のオープン祝いには、一富士二鷹三茄子が描かれたタペストリーを贈ろう。」
- 最高のラインナップの例え:「今年のプロジェクトチームは優秀なメンバーばかりで、まさに一富士二鷹三茄子のような最強の布陣だ。」
- 運の良さを表す際:「昨日は宝くじが当たり、今日は昇進の内示が出た。まるで一富士二鷹三茄子の夢を見た後のようだ。」
このように、非常に縁起が良いことや、最高の組み合わせを表現する際に用いられます。
一富士二鷹三茄子にまつわる雑学(四以降の続き)
一富士二鷹三茄子には、実はあまり知られていない「四以降の続き」が存在します。
人に話したくなるような関連雑学をご紹介します。
四扇・五煙草・六座頭という続きが存在する
実は、この縁起物のランキングには、三位以降の続きがあります。
江戸時代から伝わる一般的な続きは以下の通りです。
- 四扇(しおうぎ / よんせん):あおいで風を起こす扇(おうぎ)
- 五煙草(ごたばこ):嗜好品である煙草(たばこ)
- 六座頭(ろくざとう):琵琶法師や按摩(あんま)などを職業とした、髪を剃った盲目の人(座頭)
これらもまた、それぞれに深い縁起の良さが込められています。
「一二三」と「四五六」がそれぞれ対応している理由
四、五、六のアイテムは、適当に選ばれたわけではなく、前半の一、二、三と見事な対応関係(対比)になっています。
| 組み合わせ | 対応する縁起の意味 |
|---|---|
| 一富士と四扇 | どちらも裾が広がっている形から「末広がり」を意味し、子孫繁栄や商売繁盛の象徴。 |
| 二鷹と五煙草 | 鷹は空高く舞い上がり、煙草の煙も上に昇っていくことから「運気の上昇」の象徴。 |
| 三茄子と六座頭 | 茄子は実の表面に毛がなく、座頭も頭を剃り上げていることから、「毛がない=怪我ない(無病息災)」の語呂合わせ。 |
このように、単語を二つずつペアにすることで、縁起の良さをさらに強調する高度な言葉遊びになっていたのです。
そもそも「初夢」はいつ見る夢のことなのか
一富士二鷹三茄子を見るべき「初夢」ですが、実はいつ見る夢を指すのかについては時代によって変遷があります。
- 大晦日(12月31日)から元日(1月1日)にかけて見る夢:古い時代に一般的だった説。
- 元日(1月1日)から2日にかけて見る夢:江戸時代以降に主流となり、現代でも最も一般的に支持されている説。
- 正月2日から3日にかけて見る夢:江戸時代後期の一部で広まった説。書き初めや初商いが2日に行われることに合わせた見方。
現代の暦や感覚に当てはめると、1月1日の夜に眠りにつき、1月2日の朝に目覚めるまでに見る夢を「初夢」とするのが最も一般的です。
一富士二鷹三茄子の由来や意味でよくある誤解
このことわざに関して最も多い誤解は、「なぜ茄子が縁起物なのか?」という疑問です。
現代の感覚では、スーパーで普通に買える野菜の一つに過ぎないため、富士山や鷹と並べられることに違和感を覚える人も多いでしょう。
しかし、江戸時代初期において、季節外れの「初物の茄子」は超高級品でした。
特に温かい駿河国で冬や春先に栽培された茄子は、現代の価値に換算すれば一つ数万円から十数万円もするような贅沢品だったのです。
将軍や一部の大名しか口にできない高級な初物を夢に見ることは、当時の庶民にとってとてつもない富と幸運の象徴でした。
茄子は庶民的な野菜だから選ばれたのではなく、当時は手が届かない憧れの象徴だったという時代背景を理解することが大切です。
一富士二鷹三茄子の由来に関するよくある質問
一富士二鷹三茄子の由来となった地域はどこですか?
徳川家康が隠居生活を送った駿河国(現在の静岡県)に由来するという説が最も有力です。駿河国の名物や、高いものを順番に並べたと言われています。
なぜ「茄子」が縁起物として選ばれたのですか?
「事を成す(成功する)」という語呂合わせや、「毛がない(怪我ない)」という無病息災の意味が込められています。また、江戸時代には初物の茄子が非常に高価な高級品であったため、富の象徴でもありました。
一富士二鷹三茄子には「四」以降の続きがありますか?
はい。「四扇(しおうぎ)、五煙草(ごたばこ)、六座頭(ろくざとう)」という続きがあります。それぞれ、富士、鷹、茄子と縁起の良い意味でペアになっています。
初夢はいつからいつに見る夢のことですか?
時代によって異なりますが、現代では「元日(1月1日)の夜から1月2日の朝にかけて見る夢」を初夢とするのが最も一般的です。
本当にこの三つを初夢で見ないと運気が下がりますか?
そんなことはありません。これらはあくまで江戸時代に流行した縁起担ぎや言葉遊びであり、見なかったからといって運気が下がるわけではありません。良い一年を願う昔の人の明るい風習です。
一富士二鷹三茄子の由来まとめ
「一富士二鷹三茄子」という言葉の裏には、徳川家康の存在と、江戸時代の庶民の豊かな言葉遊びの文化が隠されていました。
雄大な富士山、大空を舞う鷹、そして高級品であり「事を成す」茄子。
これらを見た目の高さや名物として並べるだけでなく、「無事」「高い」「毛がない(怪我ない)」と語呂合わせにまで昇華させている点に、昔の人の知恵とユーモアを感じます。
さらに四扇、五煙草、六座頭と見事な対比を作り上げている構成美は、単なる迷信を超えた文化的価値を持っています。
次のお正月を迎える際には、枕元にこの言葉を思い浮かべながら、素晴らしい初夢を見られるように願いを込めて眠りについてみてはいかがでしょうか。
もし茄子の夢を見たとしても、「野菜の夢だ」とがっかりせずに、物事を成し遂げる大吉夢だと喜んでくださいね。