魚偏に師で「鰤」と書くのはなぜ?漢字の成り立ちとブリの語源

冬の食卓や居酒屋のメニューでひときわ目を引く「寒ブリ」。

漢字で書くと、魚偏に「師」で「鰤」と書きます。

なぜ、魚に先生を意味する「師」を合わせるのでしょうか。学校の先生と魚に、一体どんな関係があるのか不思議に思う人もいるはずです。

結論から言えば、最も広く知られている由来は「師走(12月)に旬を迎える魚だから」という説です。しかし、漢字の成り立ちや歴史をひもとくと、理由はそれだけではありません。

この記事では「鰤」という漢字が生まれた背景、ブリという名前の語源、そして出世魚としての面白い雑学まで、余すところなく解説します。

次にブリのお刺身を食べる時、誰かに話したくなる知識が見つかるはずです。

「鰤」の漢字の由来を先に結論から解説

まずは「鰤」という漢字がなぜ魚偏に「師」と書くのか、その核心から見ていきます。

最も有力なのは「師走に旬を迎える魚」だからという説

現在、最も一般的で有力とされているのは、ブリが12月、つまり「師走(しわす)」に最も美味しくなる旬の魚だから、という説です。

古くから日本人は、季節の移ろいと食べ物を密接に結びつけてきました。冬の寒さが厳しくなる12月頃、産卵期を前にしてたっぷりと脂を蓄えたブリは「寒ブリ」と呼ばれ、最高級の味わいになります。

「師走に美味しい魚」だから、魚偏に師。とても日本人らしく、季節感に溢れたストレートな命名だと言えます。

3秒で分かる「鰤」の漢字由来早見表

諸説ある漢字の成り立ちと、名前の語源を大まかに把握しておきましょう。

分類 由来・語源の説 内容の要点
漢字の由来(魚+師) 師走説(有力) 師走(12月)に旬を迎えて一番美味しくなる魚だから。
漢字の由来(魚+師) 老魚説 「師」という字が持つ「年を経た」「大きい」という意味から、成長しきった魚を表した。
漢字の由来(魚+師) 軍隊説 「師」には「軍隊・集団」という意味があり、群れをなして泳ぐ姿から当てられた。
名前の語源(ブリ) アブラ説(有力) 脂(アブラ)が多い魚なので、「ブラ」が転じて「ブリ」になった。
名前の語源(ブリ) フリ説 時間が経つと身が赤黒くなる(古い身=フリ)ことから転じた。

魚偏に「師」と書く理由をめぐる諸説

先ほど紹介した「師走説」が最も有名ですが、実は「師」という漢字の本来の意味をたどると、別の説も非常に説得力を持って浮かび上がってきます。

師走(12月)に脂が乗って美味しくなるから

先述の通り、冬に獲れる寒ブリは格別の美味しさです。とくに富山県の氷見(ひみ)などで水揚げされる寒ブリは、古くから高級魚として珍重されてきました。

魚偏の漢字は、その魚の特徴や獲れる季節をそのまま右側の字(つくり)に当てはめることがよくあります。例えば、春に獲れるから「鰆(サワラ)」、秋に獲れるから「鰍(カジカ)」といった具合です。

それと同じ法則で、師走の魚だから「鰤」とした。これは非常に理にかなっています。

「師」という字が持つ「老成した」「大きい」という意味から

もう一つの有力な見方が、漢字の「師」が本来持っている意味に注目した説です。

「師」という字には「先生(教師、師匠)」という意味がありますが、これは突き詰めると「年を経て経験を積んだ立派な人」を指します。つまり「年老いた」「大きい」というニュアンスを含んでいるのです。

ブリは出世魚であり、幼魚から成長するにつれて名前が変わります。そして、一番大きく成長しきった最終形態の成魚だけを「ブリ」と呼びます。

「魚のなかで最も成長しきった、大きく老成した魚」だから、魚偏に「師」を当てた。この説も漢字の成り立ちとして非常に理路整然としています。

師(軍隊)のように群れをなして泳ぐから

さらにもう一つ。「師」という字には「軍隊」や「大勢の集団」という意味があります。「師団」や「出師(すいし)」といった言葉に使われる通りです。

ブリは回遊魚であり、時期が来ると大きな群れをなして海を移動します。その統率された群れの様子が、まるで軍隊(師)のようであることから「鰤」という字が作られたとする説です。

「ブリ」という名前の語源はどこから来たのか

漢字の由来が分かったところで、次は「ブリ」という発音そのものの語源に迫ります。これにもいくつかの説が存在します。

脂が多い魚「アブラ」が転じたという説

最も広く支持されているのが「脂(アブラ)」に由来する説です。

ブリは非常に脂の乗りが良い魚です。そのため、古くは「アブラ」と呼ばれていました。それが時代とともに言葉が変化し、「アブラ」の上の「ア」が取れて「ブラ」になり、さらに発音がなまって「ブリ」になったとされています。

江戸時代の学者である新井白石も、著書『東雅(とうが)』のなかで「脂(あぶら)多き魚なり、脂の上の字を略する呼ぶなるべし」と記しています。

身が赤黒いことを示す「フリ」から転じたという説

もう一つの説は、ブリの身の性質に由来します。

ブリの身は、切り身にして時間が経つと酸化して赤黒く変色しやすい特徴があります。この「古い身」であること、あるいは「赤黒い」ことを古語で「フリ」と呼んでいたことから、それが濁って「ブリ」になったという説です。

ブリにまつわる知っておきたい雑学

ブリの面白さは、漢字や名前の由来だけではありません。日本人の食文化と深く結びついた、人に話したくなる雑学を紹介します。

成長に合わせて名前が変わる出世魚の代表格

ブリは、成長の段階によって呼び名が変わる「出世魚(しゅっせうお)」の代表格です。

武士が元服や出世に伴って名前を変えていた江戸時代の風習になぞらえ、成長に伴って名前が変わる魚は縁起が良いとされてきました。そのため、ブリはお正月や祝い事の席には欠かせない魚として重宝されています。

関東地方を例にとると、ブリは成長に合わせて次のように名前を変えます。

  1. ワカシ(15〜30cm程度)
  2. イナダ(30〜50cm程度)
  3. ワラサ(50〜60cm程度)
  4. ブリ(80cm以上)

地域で違うブリの呼び名比較

出世魚の面白いところは、地方によってその呼び名がまったく異なる点です。同じ大きさの魚を指していても、関東と関西では名前が通じないことも珍しくありません。

成長段階(サイズ) 関東地方での呼び名 関西地方での呼び名 北陸地方での呼び名
10〜30cm(稚魚) ワカシ ツバス ツバイソ
30〜50cm(若魚) イナダ ハマチ フクラギ
50〜80cm(成魚前) ワラサ メジロ ガンド
80cm以上(成魚) ブリ ブリ ブリ

最終形態の「ブリ」だけは全国共通ですが、途中の名前は地域色が色濃く出ます。スーパーの鮮魚コーナーで魚の名前を見ただけで、そこがどの地域なのか分かるほどです。

ハマチとブリは実はまったく同じ魚

お寿司屋さんに行くと「ブリ」と「ハマチ」が別のメニューとして並んでいます。味が違うので別の魚だと思っている人も多いのですが、実は生物学的にはまったく同じ魚です。

元々、関西地方でブリの若魚(30〜50cm)を「ハマチ」と呼んでいました。その後、香川県などでブリの養殖が盛んになり、全国に出荷されるようになります。

その際、天然のブリと区別するために、養殖されたブリの若魚を「ハマチ」というブランド名で全国に流通させました。

そのため現在では、地域に関係なく「天然で大きく育ったものをブリ」「養殖された中型サイズのものをハマチ」と区別して呼ぶのが一般的になっています。脂の乗り方が違うのは、天然か養殖かの違いによるものです。

「鰤」の由来でよくある誤解

漢字の「鰤」について、「年老いた魚だから美味しくないという意味が込められている」と誤解されることがありますが、これは間違いです。

「師」という字には確かに「年老いた」というニュアンスがありますが、それは「長く生き抜いて大きく立派に成長した」というポジティブな意味合いです。出世魚の最終形態に対する敬意のようなものが込められており、決して味が劣るという意味ではありません。

「鰤」の漢字や語源に関するよくある質問

「鰤」の漢字はいつごろから使われているのですか?

中国の古い文献には「鰤」という漢字は存在せず、日本で作られた国字(和製漢字)だと考えられています。室町時代の辞書などにすでに記載が見られるため、少なくともその頃には使われていたと推測されます。

「ブリ」の語源は脂から来ているというのは本当ですか?

アブラ(脂)が変化してブリになったという説が最も有力です。江戸時代の学者である新井白石も自著のなかでこの説を支持しており、ブリの脂の強さを考えれば非常に納得のいく説です。

ブリはなぜ出世魚と呼ばれるのですか?

成長するにつれて名前が変わる特徴が、江戸時代の武士が出世に伴って名前を変える風習(元服など)に似ているためです。縁起の良い魚として、お正月などのハレの日に食べられるようになりました。

ハマチとブリはどう違うのですか?

生物学的には同じ魚です。本来は関西地方での「ブリの若魚」の呼び名がハマチでしたが、現在では一般的に「天然の成魚をブリ」「養殖された若魚をハマチ」と区別して呼ぶことが多くなっています。

「師」という漢字には本来どんな意味があるのですか?

軍隊や大勢の集まり、または人を導く立派な人(先生)、年を経て経験を積んだ人、という意味があります。ブリの漢字においては「師走に獲れる」「大きく老成した魚」「群れ(軍隊)をなす」などの意味が掛け合わされていると考えられています。

「鰤」の由来まとめ

魚偏に師と書く「鰤」。

その由来には、12月の「師走」に脂が乗って美味しくなるからという季節感あふれる説や、魚のなかで最も大きく「老成(師)」した姿を表す説など、日本人の観察眼の鋭さが詰まっていました。

名前の語源も「脂(アブラ)」がなまったものだと言われており、昔の人もあの濃厚な旨味の虜になっていたことがうかがえます。

スーパーでワラサやハマチというパックを見かけたら、それはまだ出世の途中にあるブリの若き姿です。冬の食卓にブリの照り焼きやお刺身が並んだら、ぜひこの漢字の成り立ちを思い出しながら、その深い味わいを楽しんでみてください。