Cookieの由来はフォーチュン・クッキー?語源に隠された意外な事実と俗説

新しいWebサイトを開くたびに、画面の下からスッと現れる「Cookieを許可しますか?」のポップアップ。

ITの専門用語がひしめく中で、なぜかこれだけお菓子の可愛らしい名前がついている。ずっと不思議だった。

調べてみると、ただのポップなネーミングではなく、プログラマーの遊び心と古い歴史が絡み合った面白い背景が見えてきた。

実はこれ、ただのお菓子ではなく「マジッククッキー」という古い専門用語から来ている。

IT用語としての由来の結論から、世間に広まっている俗説、そしてお菓子のクッキーそのものの語源まで、一気に解き明かしていく。

IT用語の「Cookie(クッキー)」の由来を先に結論から

インターネットを利用する上で欠かせない「Cookie」の語源は、1980年代からUNIXなどのOSで使われていた「マジッククッキー(magic cookie)」というプログラミング用語だ。

語源は古いプログラミング用語の「マジッククッキー」

マジッククッキーとは、プログラム同士が通信する際に、お互いを識別するためだけに受け渡しされる短いデータのこと。中身を解読して実行するようなものではなく、ただ「受け取って、また返す」だけの不透明なデータトークンを指す。

1994年、当時世界シェアトップだったWebブラウザ「Netscape Navigator(ネットスケープ)」の開発エンジニア、ルー・モントゥリ(Lou Montulli)が、ブラウザに会員証のような機能を持たせようとした。

その際、彼がかつてUNIXベースのシステムで使っていたこの「マジッククッキー」の仕組みを応用し、名前をそのまま省略して「Cookie」と名付けた。これが直接的な由来である。

3秒で分かるCookieの由来・語源早見表

IT用語の「Cookie」と、お菓子の「クッキー」それぞれの成り立ちを大まかに把握しておこう。

項目 内容
Cookieの語源 UNIXのプログラミング用語「マジッククッキー」
名付け親 ルー・モントゥリ(1994年、Netscapeにて考案)
マジッククッキーの由来 おみくじ入りの「フォーチュン・クッキー」説が有力
よくある俗説(間違い) ヘンゼルとグレーテルのパンくずが由来という説
お菓子のクッキーの語源 オランダ語の「koekje(小さなケーキ)」

なぜプログラムのデータ通信を「クッキー」と呼んだのか

では、考案者が名前を借りた「マジッククッキー」という言葉自体は、一体どこから来たのか。はっきりとした公式の記録が残っているわけではないが、プログラマーたちの間で最も有力とされている説がある。

最も有力なのは「フォーチュン・クッキー」説

マジッククッキーの名前の由来として最も支持されているのが「フォーチュン・クッキー(fortune cookie)」説だ。

フォーチュン・クッキーは、アメリカの中華料理店などで食後によく出される、中に小さなおみくじ(メッセージ)が入っているお菓子である。

この「外側からは中身が見えないが、割ってみると中に短いメッセージが隠されている」という特徴が、プログラム間でやり取りされる不透明なデータの性質とそっくりだった。

  • 中に短い文字列(データ)が隠されている。
  • 受け取った側は、中身を書き換えずにそのまま保持する。
  • 次に必要になった時に、そのメッセージを取り出して使う。

これらの振る舞いが、フォーチュン・クッキーの仕組みと完全に一致していたことから、ユーモアを好むプログラマーたちが名付けたと考えられている。

ヘンゼルとグレーテルの道しるべ説は間違い

ネット上には「童話のヘンゼルとグレーテルが、森で迷わないように落としたパンくず(あるいはクッキー)のように、自分がどこから来たのか足跡を残すからCookieと名付けられた」という説が広く出回っている。

しかし、これは完全に別のIT用語との混同だ。

Webサイトで現在位置を示す「ホーム > カテゴリ > 記事」というナビゲーションを「パンくずリスト(ブレッドクラム)」と呼ぶ。このパンくずリストの由来こそがヘンゼルとグレーテルであり、Cookieの由来として語るのは誤りである。

そもそもなぜWebブラウザにクッキーが必要だったのか

ルー・モントゥリがNetscapeでCookieを開発した1994年当時、Webサイトはただの「電子カタログ」だった。

見る側が「このページをください」と要求し、サーバーが「はいどうぞ」と返す。それだけで通信は綺麗に完了してしまう。「ステートレス(状態を持たない)」と呼ばれるこの性質は、要するに極端な記憶喪失のシステムだった。

ページを移動するたびに「あなたは誰ですか?」と初対面の対応をされる。これでは、ログイン状態を維持することも、ショッピングカートに商品を入れてレジへ進むこともできない。

  1. ユーザーがサイトを訪問する。
  2. サーバーが「会員証(Cookie)」を発行し、ユーザーのブラウザに持たせる。
  3. ユーザーが別のページに移動するとき、その会員証を見せる。
  4. サーバーが「先ほどのあなたですね」と認識し、カートの中身を引き継ぐ。

この仕組みのおかげで、私たちはAmazonで買い物ができ、毎回パスワードを入力せずにSNSを開けるようになった。Cookieは、記憶喪失だったWebの世界に「文脈」を持たせた画期的な発明だった。

お菓子の「クッキー」自体の語源はどこから来たのか

IT用語を離れて、お菓子の「クッキー」という言葉そのもののルーツも見てみる。いつも食べている焼き菓子は、どこで生まれた言葉なのだろうか。

オランダ語の「小さなケーキ(koekje)」がルーツ

語源はオランダ語の「koekje(クックヤ)」。これは「小さなケーキ」を意味する言葉だ(koek=ケーキ、je=小さいものを表す接尾辞)。

17世紀、オランダからの移民がアメリカ大陸(現在のニューヨーク周辺、当時のニューアムステルダム)に入植した際、この言葉とお菓子の製法を持ち込んだ。それが英語風になまって「cookie」として定着した。

アメリカとイギリスで違うクッキーの定義

実は「クッキー」という呼び方が一般的なのはアメリカを中心とした北米だ。イギリス英語圏に行くと事情が全く異なる。

国・地域 クッキーの定義 ビスケットの定義
アメリカ 甘い焼き菓子の総称。 ケンタッキーフライドチキンで出てくるような、パンに近いふっくらしたもの。
イギリス 基本的には使わない。使う場合はアメリカ風のしっとりしたものを指す。 甘い焼き菓子の総称。アメリカのクッキーにあたるものは全てビスケットと呼ぶ。

イギリス人に「クッキーを食べる?」と聞くと、チョコチップが入ったカントリーマアムのようなアメリカ風の柔らかいお菓子を想像する。私たちがイメージするサクサクの焼き菓子は、イギリスではすべてビスケットだ。

クッキーとビスケットの違いに関する雑学

言葉の成り立ちを探ると、国ごとの文化や歴史が見えてくる。日本やアメリカにおけるクッキーにまつわる面白い事実をいくつか紹介する。

日本の独自ルール「糖分と脂肪分40%以上」

日本では、クッキーとビスケットの違いが法律(公正取引委員会の承認を受けた規約)によって明確に分けられている。

全国ビスケット協会の「ビスケット類の表示に関する公正競争規約」によると、手作り風の外観を持ち、糖分と脂肪分の合計が重量の40%以上の高級なものを、特別に「クッキー」と呼んでよいことになっている。

つまり、日本では「ビスケットという大きなくくりの中に、糖分と油分がリッチな『クッキー』という特権階級がいる」という構造になっている。

フォーチュン・クッキーの起源は実は日本だった

IT用語の語源となった「フォーチュン・クッキー」について、もう一つ見逃せない事実がある。アメリカの中華料理店の定番だが、実はそのルーツは中国ではなく日本にある。

江戸時代、金沢などの北陸地方や京都には「辻占煎餅(つじうらせんべい)」という、中におみくじを入れたお菓子が実在した。

19世紀末から20世紀初頭にかけて、アメリカに渡った日本人の移民(サンフランシスコの日本庭園を管理していた萩原眞など)が、この辻占煎餅をお茶請けとして提供し始めたのがアメリカでの始まりだ。当初は「フォーチュン・ティー・ケーキ」と呼ばれていた。

その後、第二次世界大戦中の日系人収容によって日本人が店を開けなくなった隙に、中国系のレストランがこのアイデアを取り入れ、大量生産して中華料理のおまけとして定着させたのだ。

「日本の江戸時代のお菓子」→「アメリカの日系移民」→「中国系レストランの定番」→「UNIXのプログラミング用語」→「Webブラウザの保存技術」という、信じられないようなバトンリレーが行われていたことになる。

Cookieの由来に関するよくある質問

Cookieの名前を考えたのは誰ですか?

1994年、Netscape Communicationsのプログラマーだったルー・モントゥリ(Lou Montulli)です。Webブラウザが通信状態を記憶できるようにするための手段として考案し、実装しました。

IT用語のCookieとお菓子のクッキーは関係ありますか?

直接的には関係ありませんが、おみくじ入りの「フォーチュン・クッキー」がプログラミング用語の「マジッククッキー」の由来になったという説が有力です。中にデータ(メッセージ)を隠し持っている点が共通しているためです。

ヘンゼルとグレーテルのパンくずが由来というのは本当ですか?

いいえ、それはよくある俗説(間違い)です。ヘンゼルとグレーテルのパンくずは、Webサイトの現在位置を示す「パンくずリスト(ブレッドクラム)」の由来であり、Cookieの由来とは関係ありません。

Cookieを拒否するとどうなりますか?

Webサイト側があなたを識別できなくなります。毎回ログイン画面が表示されたり、ショッピングカートに入れた商品がページを移動すると消えてしまったりと、多くの便利な機能が正常に動かなくなります。

クッキーとビスケットの違いは何ですか?

アメリカでは焼き菓子全般をクッキーと呼び、イギリスではビスケットと呼びます。日本では全国ビスケット協会の規約により、糖分と脂肪分が40%以上のものをクッキー、それ未満をビスケットと明確に区別しています。

知れば少し見え方が変わる、小さなテキストデータ

IT用語のCookieは、決して適当につけられた可愛いネーミングではない。

プログラミングの世界で使われていた「マジッククッキー」という歴史ある言葉を、Webブラウザの記憶喪失を治すためにルー・モントゥリが持ち込んだのが始まりだった。

そこには、オランダの小さなケーキの歴史や、日本のおみくじ煎餅がアメリカに渡った数奇な運命が詰まっている。

そう考えると、いつも画面の下で邪魔に感じていた「Cookieを許可しますか?」のポップアップも、少しだけ違った見え方になるかもしれない。

便利さと少しの不気味さを同居させながら、今日もCookieは私たちの手元にこっそりメッセージを渡し続けている。